2017年01月11日

人物だけが獲得す

 
ロード・アイランドのプロヴィデンスに近い精神病院から、最近、きわめて特殊な症状を示していた患者が脱走した。名前をチャールズ・デクスター・ウォードといって、愛息の狂気を嘆き悲しむ父親の意向もあって、病院内に拘禁状態におかれていた。初期の奇行が、しだいに異常の度をくわえ、思考内容が明白な変調をあらわすと同時に、殺人的嗜好の可能性さえ生じてきたからで、父親としても、この処置に踏みきらざるを得なかったのである。しかし、医師たちは、はじめて見る特殊の病症に困惑し、彼らの力ではいかんともしがたいことを認めていた。その異常性たるや、ひとり精神面にとどまらず、生理的な領域にもおよんでいるのだった。
 第一に、患者の風貌が、二十六という年齢にしては、異様なほど年長の印象をあたえていた。狂気が人を急速に老いこませるのは周知の事実であるが、この青年のそれは、非常に高齢のる老成といった感じであった。第二に、肉体器官の作用が極度に均衡を失って、これに似た臨床例に出会った医師はいなかった。呼吸と心臓の鼓動が、完全に均斉を欠いていたし、発声も困難な様子で、囁き声以上の音を出すことが不可能であった。消化機能が信じられぬほど減退し、通常の刺激にたいする神経中枢の反応は、常態のものにせよ、病理的のものにせよ、従来報告されたどの症例ともほど遠いものがあった。皮膚は病的に乾燥し、細胞組織が最大限に粗《あら》び、かつ、弛緩した。右の臀部《でんぶ》にあったオリーブ状の大きな母斑までが、いつのまにか消え失せて、そのかわり、胸部にくっきり、かつては見られなかった黒あざがあらわれた。医師団の診断は、ウォードの肉体における新陳代謝《メタボリズム》が、先例を見ぬ程度に阻害《そがい》されたものと一致した。
 心理学的にみても、チャールズ・ウォードなる患者は、ユニークな症例といえるのだった。最新の医学研究論文を渉猟したところ



Posted by exposed at 19:04│Comments(0)
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